詩歌

汝=あなたを歓待する詩

私は汝=あなたをわが家へと招き入れる そうして私はこの【詩うた】を詠み始める 女の躰を持ちながら同時に神の顔をもつ者として 私の隣に横たわる汝=あなたのためにあるいは私のほうが汝=あなたに招き入れられたのである 私は汝の元にふたたび帰り着き 私…

霞の世界*1

1969 年の歪んだギターを爆音で聴きながら わたしは夢から戻る途中に 現実とよく似た世界へと迷いこんでしまった わたしは鈍い不安に侵されているのだが ここではその不安にすら【霞haze】がかかっているやつらの亡霊に満ちたこの世界には わたしだけしかい…

酸欠の人魚あるいは大樹の巫女

かの女は酸欠の人魚であるが それゆえかの女は海溝に聳える大樹の巫女となる 大樹は核を貫き再び天へと向かう 私はマントルにすら達することはできず 熱圏に達するまえに墜落してしまう私はかの女を大樹へと導くべく命じられたが かの女は幻へと揺らぎ 私は…

覚めつつある呼吸器

酒の覚めつつあるぼくの咽が咳払いをして 少しだけ憂鬱になってくる ぼくはあまり鼾をかかないが そのことに特別な理由を求めるのは きっと間違っている だから ぼくと並んで寝ている人たちの そのうちいくつかは鼾であるようやな寝息の いずれがだれのもの…

双子「明日が来るならなにも要らない」*2

ここに双子の少女がいる 一人は世界を愛する 一人は世界を憎む 人は二人を見分けることができない 二人は同じように発する 二人は同じように振舞う 一人は世界への愛がゆえに 一人は世界への憎しみがゆえに 二人は同時に発する 明日が来るならなにも要らない…

ある朝

夢の中でぼくは あの銀行員の先輩のように まじめにスーツを着て 後輩どもと飲んでいた ああせめて無職であったならと ぼくは思ってしまったのだスピーカーは アンプの影響を受け 生硬い音で鳴っている (あるいはそれは ぼくの耳か頭のせいだろうか?)眠る…

ごみ捨て場の問題

ごみ捨て場の腐臭をうまく想像できないぼくに どうしてごみ捨て場の問題を語ることができるだろうか ましてやごみ捨て場に息づきうる生命について うまく想像できないぼくに だがぼくは それでも ごみ捨て場の問題について語ることを迫られる だからぼくは …

短歌 16 首

艶本を背伸びしなけりゃ届かない場所に置くのは父親だけか*1 本当のことを言ったらもう人は詩でおのれを救えなくなる *2 純粋なキッチュとしての新世界よりの響きを Inbal は振る*3 ちはやふる神ではあらぬ あらぶるというわけもなし ただ黙すべし そういえ…

短歌 8 首

温泉地 飯の高くて N くんは ガストはないか と言い出す始末 東京は夜の七時 と送っても歌の続きをきみは知らない 流星を探す代わりにきみの背の黒子を数え願いを告げる 賭けのごと薄き願いは星よりもむしろ微小な世界へ告げよ わがうちに混じる半身の乙女と…

短歌 13 首

カッターの芯を折るとき 根元から折れてしまえ と密かに望む あの人は白い下着を洗うとき漂白剤を入れるだろうか 薄汚れたブラウン管の TV の画面に指で 生きろ と書いた タッカーに 1 本芯を入れて持ちその 1 本も錆びるまで待つ 俊足の少女になりたい 秋の…

短歌 18 首

欠損は埋まったのです 双色のジグソウ・パズルのようにではなく 直観で恋をしているぼくたちに排中律は要らないのです 生き延びた者を殺した罪のもとぼくはあなたをけして許さぬ ぼくたちの間主観性の実在を信じてみよう 詩人として こうやってまた郷愁が増…

短歌 27 首

たれをかも会う人にせん 決め倦ね ただ偶然を待兼の山 眠れない暑い空気のせいじゃないむしろ温度の欠如がゆえに 夢がもう叶わなぬことにうすうすと気づきつつある少女のように まだ中二病から抜け出せない少女 ぼくの隣でポエムを詠んで 本物のファリック・…

匂い

かの女の煙草の匂いは いつも朝には消えてなくなる ぼくの煙草の匂いが強いからだろうか だがぼくは昨夜から煙草を喫んでいない混じり合った汗の匂いは思い出せる ぼくは昨夜から汗もほとんどかいていない 自分のシャツを嗅いでみたところで なんの匂いか分…

短歌 12 首

だれとなくキスしたくなる午前 2 時 煙草だけしか相手はいない おれでないだれかを愛すあの人に見てほしくないこの流れ星 かつてあに道を記しし女〔ひと〕の書く言葉はいまだ遠いと知った あの人はぼくとキッスをしてたはずなのに雲雀*1に奪われていた 故し…

短歌 13 首

あの月の兎はきっとぼくの喫む煙草の煙嫌がりはせん あの雲はもしかしたらばあの月の兎の煙草の煙なのかも 後ろより聞こえくるのはわが国の言葉ではないそう信じたい こんな夜自分の性が疎ましくなってくるのだ 歓待を待つ 体温が欲しいだけなの性的なものは…

短歌 13 首

夜立ち上がりて思う なぜか痛いぐらいだ まだ足りないか あの娘から貰えなかったチョコレート Lark の煙全部喫み込む ワイシャツを新調したとうこととすら同じ重さで流れた知らせ あをここに連れて来し人夢にすら現れぬそももとより在らず 古布は古紙と一緒…

短歌 24 首

きみの名は分かるのだけど いろいろなものがただ上滑りして行く 喫みなれた煙草味の残ってる口腔だけは現前的で きみの名をその口の中で転がして見るけど いまはまだ分からない だれなのか分からないまま君という言葉を詠まねばならぬと思い 少年のようにで…

短歌 9 首

わずかだけ唇に触れたその髪の記憶が変容する午前 2 時 中庭で寄り添う 2 つの壊れたる椅子よ Syd Barrett を聴け 真夜中に襲い来るのは破壊衝動 Richard D. James のような笑みを浮かべて 煙草喫み椅子を壊して喚きつつ次のシケモクに火を着けて喫む こんな…

短歌 19 首

ようやっと帰りついたるその場所に独り待ってたきみは本物? *1 ただ一つその発言をする勇気ないからほかの言葉で埋める 街の子も塀を登れば山がある侮るなかれ想像力を 夢で見たことすら人に話すことできない恋をでも捨てられず 上階は奇術研究会のはず美女…

短歌6首

空港のための音楽聞きながらぼくは旅立つ夢の世界へ *1 雨の日に白いジーンズ穿いたのは雨水の色を知りたいがため 白色の可憐な傘に隠された制服の顔きっと可愛い ぼくはただ詩人になりたかったのさ あそうですかカツ丼は自費 わが想い駆り立てているもので…

短歌8首

詩人〔うたびと〕は息するように詩〔うた〕を詠む肺の奥まで弄〔いじく〕りながら*1 辛口のジンジャエール空き瓶の中に無意味な涙を溜める 友がみなぼくより偉く見える日よマクドコーヒーおかわり自由 近くにも遠くにもない逃れえぬ確信を今齎す女 深き夜に…

短歌 17 首

イブの夜にちり紙の量多いのは感冒のせい少し寂しい 風の鳴る夜いつまでも眠れない孤独の気配われを苛み 眠れぬ夜あなたがここにいてほしいそのあなたさえだれか分かれば TL に鈴木謙介現れて朝に気づいてカーテン開ける ぼくはまたおんなじようにミスをして…

短歌4首

地名論駅の景色と乗り降りす人のみを見て語ってみせる 現でも好きだと云えぬ壊れるを恐れるいますらありはせぬのに クリスマス前いまならば言い訳があると購う〈non-no〉に〈an・an〉 モーニング・コール頼まれ困る友 = 孤独の夜に架けられる友

短歌8首

ブレーカーなん度か落とすそのうちに冬にも少しずつ馴染んでく 真夜中のマクド恢復する生の感覚募る人恋しさが こんな夜遅くに呼べる人なんていないと思うそれは逃げか 独りでも声上げ笑えるぼくだけどそれを思えばさらに虚しく 起きている人にだけしか架か…

短歌8首

静かなる独りの饗宴耽る夜露悪的な写真が撮りたい 昨日日が暮れてそれから小便をなん度?明日から授業が始まる 真夜中の灯り落とした闇の中狂った時計ただチクタクと ぬばたまの闇にもすこし馴染んだらなにかが見えるきみの帽子だ 夜の雲見ながらきみも見て…

腐肉に種まく者たち――工藤哲巳のために

未来すらも ひとたび一つの思想において仮想現実として定められたならば 腐り爛れてゆく だが その腐肉のうちよりなにものかが生じることを私たちは知っていなければならない その腐臭が私たちに 人間であることを 腐肉に種蒔くものであることを 教えてくれ…

短歌8首

本当のリアリストなら最高のロマンティシストじゃなくちゃいけない 無数なるリアルの内から唯一のリアルを選ぶロマンティシスト 思い出で語られるのは他者であるもう一人のわたしの痕跡 好き好きに囁かれるは行く先か 間接照明 間接照明 脳内で言繰るだけの…

短歌8首

もうそろそろ、中心となる活動の場を見直すべき時期かもしれない 最低限くつろげるまで部屋片し、本を読みつつ、酒を飲もうか。 その前に、まずは、シャワーを浴びるべし。汗流さねば、やる気がでない。 なぜいまさらあんな夢を見てしまったのだろう と考え…

短歌8首

わずかなる望みに賭けて通うことすべての歌を詠みつくすほど 言い訳をするために生きているような日々に嫌気が差し全て切る 川岸で独り寝ているきみ探し煙草の灯りじゃ暗すぎるけど その手紙3年前のものならば笑えるけれど実は去年の ヨーグルトたんとお食べ…

短歌6首

あまりにもきみへの恋に臆病で酔わなきゃ夢に見ることすらも 来春に就職 という声聞きて振り返れば懐かしき顔 すぐ帰るからねと言って出て行ってそれから今日で49日で 眠るときすら電子機器らの灯から逃れられぬは貧しき証拠か ああ………もう……………だめだ……そう…