『ロリータ』

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ・コンプレックスの語源として語られることの多い作品であるが、その実非常に文学的魅力に溢れた作品である。この小説の魅力は、その倒錯性よりも寧ろ、ハンバート・ハンバートという一人の男性の、優れた精神性の中の、社会からはみ出すが故に静かに増幅された異常性にあるのだろう(勿論ロリータの描写も魅惑的であるが)。
過剰ともいえる非日常的日常の描写の中から感じ取られる異常性。それを語る主体の、自分の性癖と行為に対する、一見正常に見えながら盲目的な認識。これらがその魅力的な文体(いずれ原語で読んでみたいと思わせられる)とあいまって、文学的な快感を引き起こす。