ジェンダー的 SF ミステリーにおける同性愛に関する記述――『BG、あるいは死せるカイニス』

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

人間は全て女性として生まれ、一部のみが男性化する、という世界を舞台とした SF ミステリー。佳作だと思うが、いくつか気になる点があった。

特に気になったのは、以下の同性愛についての記述だ。

仕方がないから女同士で擬似的に快感を得ようとする。それがレズビアンだ。

――74頁


この記述については3つの解釈が成り立ちうるだろう。

  1. 作者が同性愛をそのようなものとして捉えている。
  2. この世界では同性愛とはそのようなものである。
  3. この世界では同性愛とは常識的にその様なものとして捉えられている。あるいは少なくとも語り手である遙はそう捉えている。

同性愛は異性愛について補充的なものである、という考え方は誤っている、と私は考えるから、(1)であるならばこれは全く問題のある記述だろう。また、(2)の場合も現実における閉鎖的な同性社会における同性愛との関連で考えると、あまり適当な設定とは言えない、と思われる。(3)であるならば、とりあえず表現としては問題はない。そこにおいて問題提起を行うか行わないか、というのは作者の裁量に任せられるべき部分だろう。

私は男性であるが、所謂もやしっ子なので、男性であるだけで身体的に powerful である本作の男性たちが、その点においては羨ましく思われる。

しかし、一度関係を持った女性がその後男性化する、というのは異性愛者の男性にとってはどういった感じのするものなのだろうか。もっとも本作の世界においてはポリガミー〔polygamy〕の方が主流だと思われるので、それほど問題ではないのだろう。むしろ現実の「性転換」の方が微妙な問題を孕んでいるのかもしれない。