山本弘氏の「バイオシップ・ハンター」には、銀河系のほとんどの知的種族が持つ3本以上の指と2本以上の腕(ないしそれに類する器官)を用いた銀河標準語が登場する*1。種族間の発声機構の構造が大幅に異なり、音声以外の手段(電磁波など)で会話する種族もいるので、このような「手話」形式の共通語が使われている、というわけだ*2。
けれども、最低限同じ文法を理解できる知性を有している種族間ならば、もっと効率的な共通語が考えられる。それは、共通の文法を作った上で、単語のみを機械翻訳する、という方法だ。とはいえ、各言語の単語の意味は1対1対応にはならないから、この共通語用に新たに単語を定める必要はある。
この単語制作の作業を、たとえば、20種の文字の組み合わせによっておこなう。そして、それをもとにして、地球人であるなら、「銀河系」を意味する「*;/\^」という単語を「Hemʌlʌjoʌ」と発音し、光の色*3の遷移によって会話する種族Aならば、同じ単語を「赤・黄緑・青紫・黄・赤紫」と発光する、といったかたちで定めていく。そして、実際の会話においては、単語のみを翻訳(と呼ぶまでもない単純な作業だが)する機械を用いさえすれば、文法は同じであるのだから、ほぼリアル・タイムでの会話が可能になる、というわけだ*4。
参考文献
- 山本弘,「バイオシップ・ハンター」,『まだ見ぬ冬の悲しみも』,〈ハヤカワ SF シリーズ J コレクション〉,2006年,23-126頁.