『飼育、死者の奢り』

大江健三郎氏の作品は、以前特に選びもせず読み始めた作品が好みに合わず、それ以来全く読んでいなかったのだが、やはり他の作家への影響等を考えると、読まないわけにはいかないと感じたので、比較的好みに合いそうな、初期の作品から読んでみることにした。

この文庫本には6篇の短篇が収録されていて、現時点で『死者の奢り』『他人の足』『飼育』の3篇を読み終えたところだ。これらの3篇は、どれも寓話的な面白さがあり、同時に奇妙な居心地の悪さがある。

以前読んだ作品からは、思想的な嫌らしさが感じられた。この作品にもそういった部分はある。そして、それが奇妙な居心地の悪さを作り出している。しかし、作品の向こう側に想像される作者は、冷めた目線を保っているように思われる。それは、非常に微妙な均衡の上であり、シニシズムの過剰に陥るような危険も秘めている。だがそれ故の魅力もある。模索段階であるが故の、均衡感覚なのかもしれない。

mixi 2006年7月27日