夢の中でぼくは
あの銀行員の先輩のように
まじめにスーツを着て
後輩どもと飲んでいた
ああせめて無職であったならと
ぼくは思ってしまったのだスピーカーは
アンプの影響を受け
生硬い音で鳴っている
(あるいはそれは
ぼくの耳か頭のせいだろうか?)眠る前にぼくは
円城塔のあとにある種の詩を詠むことについて
すなわち
自らがある種の詩を詠むことの困難について
考えていた
だがそもそもぼくは
吉本隆明の詩のあとに生まれたものであるという困難のうちにいるのだ
そのような困難を
鈴木志郎康や吉岡実については感じない
かれらはむしろ
ぼくが詩を詠むということについて
希望を与えてくれる
とはいえ おそらく
円城塔や吉本隆明が
まだその小説を あるいは詩を
書く あるいは詠むまえであったとしても
ぼくはろくな詩など詠めやしなかっただろうと
そういう結論が頭を過ぎりもする……そして そうだ!
まず ぼくは
しっかりと生きていかなければならないのだ!
と
そうしなければぼくは
残された希望すら失いかねないのだ
とコーヒー豆は切れている
茶やほかの飲み物や煙草ではきっと
この朝を十全に生きられない
そう口に出し
ぼくはぼくを騙し
喫茶店へ向かおうと
眠る人たちを起こす
ごみ捨て場の問題
ごみ捨て場の腐臭をうまく想像できないぼくに
どうしてごみ捨て場の問題を語ることができるだろうか
ましてやごみ捨て場に息づきうる生命について
うまく想像できないぼくに
だがぼくは それでも
ごみ捨て場の問題について語ることを迫られる
だからぼくは 結局
ありきたりに
しかしわずかに反抗を試みながら
いずれにせよたどたどしく
答えてしまうのだそのように答えてしまうことと
想像力が不充分であると言い訳をして答えないことと
いずれが欺瞞なのだろうか
そのことに答えられないままぼくは
比喩的な意味において
今日もプラスティックを喰い
生ごみを喰う
(そう
ある種の人たちが好みそうなよくできた比喩)
短歌 16 首
本当のことを言ったらもう人は詩でおのれを救えなくなる *2
ちはやふる神ではあらぬ あらぶるというわけもなし ただ黙すべし
そういえば昨夜卒業論文を棄却されるという夢を見た
あのころの枕使えばたぶんぼく悪夢を見るよ でも耐えられる*4
ほんとうはそれほど煙草が喫みたいというわけじゃないでも買いに行く
スーパーの閉店時刻も 1 時間早くなったしもう諦める
真夜中のこの空腹を癒すにはまともな菓子かきみじゃなきゃ嫌
受胎すらしなかったわが子のために Kindertotenlieder を聴く
Eva なんてきっと見てないあの人に 気持ち悪い と云われた凹む*5
血液型問われ + と答えたら B 型だねと云われる悲しさ
ちはやふる神ではあらぬ あらぶるというわけもなし ただ黙すべし
語られる 70 年代に憧れ インターネットがあれば行きたい
神の名を街路で叫ぶその人にわたしの生は見えるだろうか
バーボンの熱に浮かされ行く先はスノウ・ドームの中の公園*6
短歌 13 首
カッターの芯を折るとき 根元から折れてしまえ と密かに望む
あの人は白い下着を洗うとき漂白剤を入れるだろうか
薄汚れたブラウン管の TV の画面に指で 生きろ と書いた
タッカーに 1 本芯を入れて持ちその 1 本も錆びるまで待つ
俊足の少女になりたい 秋の夜をゆっくり歩きつつそう思う
りっちゃん とだれか云うたびアイマスの話にわざと勘違いする
その本が机の上から落ちたのはこちらの世界が最善だから?
そんなふうに泣きたい夜もあるものね きみの背中をぼくは蹴るけど
――在学中打ち込んだことはなにですか
――終日 惰眠を貪ることです
大好き と 2 回言われてその先を想像したら怖くて萎えた
Je t'aime と云われることは恐ろしい
je とaimer とにte が潰されて
黒っぽい装いをしてコンビニに煙草を買いにちょっと出かける
麺汁と麦茶誤り売ったとうヘリコプターは今日も飛ばない
短歌 18 首
欠損は埋まったのです 双色のジグソウ・パズルのようにではなく
直観で恋をしているぼくたちに排中律は要らないのです
生き延びた者を殺した罪のもとぼくはあなたをけして許さぬ
ぼくたちの間主観性の実在を信じてみよう 詩人として
こうやってまた郷愁が増えていく 非連続なる「過去」と現在
混乱を齎す残滓 昔日の衝動起こしたる感情の
比較など無意味 好き という言葉ただ繰り返すだけでいいのだ
思考実験の過程で出来た詩をだれかに見られる前に捨てよう
妄想を口にしたならぼくたちの世界は混乱したまま凍る *1
なにかが違う なにかが違う なにかが違う 埋め尽くされて真っ黒になる*2
冷静な装いをした誠実さ それも 1 つの見識ですね
黒色のポリエチレンの袋見て吐きそうになる……泣きそうになる
真っ白な灰の煙草ができました 赤い灰皿おまけに附きます
Camel を喫んでもこの渇望が治まるわけなく蜃気楼を追う
忘れてはいけないはずのことなのに 忘れようとし じっとシャワーを
忘れてはだめだ! ここから抜けだそう 焦ってカミソリで唇切る
年の差を感じる きみの
面皰 用洗顔フォーム使うそのたび
あがシャツの
釦 を舌で 1 つづつ数えるようなことをされたら
短歌 27 首
たれをかも会う人にせん 決め倦ね ただ偶然を待兼の山
眠れない暑い空気のせいじゃないむしろ温度の欠如がゆえに
夢がもう叶わなぬことにうすうすと気づきつつある少女のように
まだ中二病から抜け出せない少女 ぼくの隣でポエムを詠んで
本物のファリック・ガールに生えているファルスはきっと美しいはず
あが友の危うい恋のあくる日にあなたはなにを明かそうとする
また恋をする女へときみなりて ぼく物語から字引きへと
鳥の声 飛行機の音 虫の音 また鳥の声 きみは地中だ
Je t'aime と I love you はどれほどに違うのだろう きみに問いたい
きみがもしガイノイドだというのなら 黙ってきみの「顔」を見つめる
虫のなく秋の夜長にコンビニは遠く湿気モクの山を漁る
許さぬ と云われたことを乗り越える 大阪の夜 信号は赤*1
ニコ動の時報を聞いてなん時間? これが楽しくて寝ないんじゃない
友がみな院試に受かりゆく日々よ 鼻に煙草の灰が入った!
どうしても起きなきゃいけない朝がある きみは遠くにいるのだけれど
触れるより触れられたい と思うのだ 異なる性をもつあなたには
触れられるよりも触れたい 同じ性もつあなたとの違い知るため
6 時には名を知らぬ鳥鳴き始め ――出会いを夢に求むべからず
長月に喪服を脱いだけどきみの遺した毒はまだ吐き出せず
もういっそ刺してほしいと願えども あなたの腕はもう消えている
消失という言葉もてあの日々を語れどもそに尽きるわけなく
いま戻りたる人の顔眺めれど やまぬ孤独の意味は分からず
生と死の 2 つの文字を組み合わせ 記号の呪い葬り去らん
あを指して リア充 と呼ぶおまえ あが顔をなぜ 思い出せない と云う
Check it out と叫ぶテレビを殴りつけ 街でなにかを探す気もせず
これなるは知識のレメディ 希釈したドグマを読めばもう騙されぬ
ようぐそうとほうとふ! いあ! いあ! などという叫びをあげたくなる夜明け前