短歌 24 首

きみの名は分かるのだけど いろいろなものがただ上滑りして行く

喫みなれた煙草味の残ってる口腔だけは現前的で

きみの名をその口の中で転がして見るけど いまはまだ分からない

だれなのか分からないまま君という言葉を詠まねばならぬと思い

少年のようにではなく大人びた少女のように恋がしたくて

満たされぬものは変わらず満たされず 妙な連帯感のみ芽生え

ぼくがいま求めるものは数撃って当たれば得られる程度のものか?

暇つぶし程度でも会ってくれればと いや そんなことないな 足りない*1

タナトスと口にすること憚られ ジャンク・フードを買いに出かける

暖かい言葉などもう要らないの ジャンク・フードはぼくに優しい

止まぬ雨 ぼくが帰らぬこと願いきみの降らしたものだといいな

運命の出会いの予感覚えつつ もっふもっふと階段降る

ガタガタとなる扇風機直す人もういないけど 捨てる気もせず

蛍光灯だけど優しい 残された夜の水溜まりに映る光は

偽物のロック野郎が 人殺すためだ と云って鋸を借りに来

わが愛撫受け入れるきみの優しさに包まれたなら今日は眠れる

あのひとが 気持ち悪い と云ったのはアスカのまねをしただけなんだ

夏の夜中山池に テケリ・リ と テケリ・リ と鳴くなにものがいる?

土曜朝目覚めてみればひとりきり 夢も現も滅びればいい

明け方に麻雀牌の音も止み そう思ったら Gnossiennes が

まだ鳴らぬ喇叭の音を知っている きっと生きてるうちには鳴らぬ

凪のようみんなはきみをそういうが ぼくにとっては台風なんだ

もしきもみの全てを詠った歌があれば それは世界を滅ぼす歌だ

夕暮れに夏の匂いを感じたら ふと思い出す プール帰りを

短歌 9 首

わずかだけ唇に触れたその髪の記憶が変容する午前 2 時

中庭で寄り添う 2 つの壊れたる椅子よ Syd Barrett を聴け

真夜中に襲い来るのは破壊衝動 Richard D. James のような笑みを浮かべて

煙草喫み椅子を壊して喚きつつ次のシケモクに火を着けて喫む

こんなにも気持ちいい酒久しぶり暗い天井響く君の声

満月の雲持ち去りし星空のしたで明日をまだ語れるね

もし唖になったとしてもまだぼくは聞こえぬ声に怯えつづけん *1

星のない夜でもきみには変わらずに明日を見なよと云わなきゃいけない

郷の猫死にたるという便りさえ動かぬことの言い訳となり……

*1:cf. ジャックス, 「からっぽの世界」.

短歌 19 首

ようやっと帰りついたるその場所に独り待ってたきみは本物? *1

ただ一つその発言をする勇気ないからほかの言葉で埋める

街の子も塀を登れば山がある侮るなかれ想像力を

夢で見たことすら人に話すことできない恋をでも捨てられず

上階は奇術研究会のはず美女を真っ二つにする音か?

中性という幻想をあの人に被せてみるがなにか足りない

悩むべしあなたの内の乙女子の命長くと願うのならば

存えば忍ぶる恋の叶うこと夢の中では増えると信じ

足りぬのは手の温もりじゃないですか? そう問うきみの手はキーボード

いまぼくが煙草を欲しいと思うのは焦げ跡をここに残したいから

火の消えた煙草をそこに押し当てて焦げ跡つけるふりしてみてる

レティクル座行超特急」を聴いてるとすごく不安な気分になって*2

大丈夫じゃないことはもうわかってる蜘蛛の糸まだ切れないよなぜ*3

不安だよハッピー・アイスクリームとね言ってみてもねまだ不安だよ*4

やっと「香菜、頭をよくしてあげよう」で恢復してもでも悲しくて*5

ノゾミ・カナエ・タマエを弔うため煙草吸い込み外はもう朝の空*6

今日はいい花見日和になりそうだビールを飲んで寝るのがいいさ

いまならば春だからと云いあの人もわたしのことを受け入れるかも

おのれをも危うくするよな嘘をつくきみに近づくただそのために

短歌6首

空港のための音楽聞きながらぼくは旅立つ夢の世界へ *1

雨の日に白いジーンズ穿いたのは雨水の色を知りたいがため

白色の可憐な傘に隠された制服の顔きっと可愛い

ぼくはただ詩人になりたかったのさ あそうですかカツ丼は自費

わが想い駆り立てているものですら捏造かもと疑っている

この恋は本気でヤバいどうしようただ黙るしかないのに悩む

短歌8首

詩人うたびとは息するようにうたを詠む肺の奥までいじくりながら*1

辛口のジンジャエール空き瓶の中に無意味な涙を溜める

友がみなぼくより偉く見える日よマクドコーヒーおかわり自由

近くにも遠くにもない逃れえぬ確信を今齎す女

深き夜にクリップ・ライトで本を読むかの女はどこへ泳ぎだしてる

唐突に差し挟まれる気の迷い過去と未来の間にいない

見た夢の中身が思い出せぬこと程度で脅かされてしまい*2

眠れない夜にいろいろ考える過去はほんとの過去ではなくて*3

短歌 17 首

イブの夜にちり紙の量多いのは感冒のせい少し寂しい

風の鳴る夜いつまでも眠れない孤独の気配われを苛み

眠れぬ夜あなたがここにいてほしいそのあなたさえだれか分かれば

TL に鈴木謙介現れて朝に気づいてカーテン開ける

ぼくはまたおんなじようにミスをして今日も体育座りの時間

きみ起きる前にビニール紐探す首を〆たいわけではないの

帰り道マーブル・チョコが食べたくてただそれだけでコンビニに寄る

大掃除古い写真を火にくべていまさら気づくきみへの想い

我が家には暖炉があると云ったらば暖かき友いつも集いて

この歌手の歌はよく聴くその声は過去のだれにも似てはないから

唇を荒れたまんまにしてるのはキスしたいのを隠したいから

このさきもずっと独り? と問いみれどその問いすらも実感がなく

あまりにも傷を見知ってしまったがゆえにいまさらわが身は切れず

男でも女でもない人がいい孤独のぼくを抱きしめるのは

恋という文脈はただ疎ましくきみに会いたいそれだけなのに

このパンはなぜこんなにも不味いのかあの娘のことは忘れたはずだ

おまえをさ×してやるほら早くこっちに来いよ 全てやめたい

神はもうどこにも見えぬそのことがわれの救いを証ししている

河原温ボットが黙るそのときも世界はなにも変わらぬことが

#jtanka タグに神詠む歌 2 つ並びしことは奇蹟ではない!

もうおれは痛みのための痛みにて得られるようなリアルは要らぬ

特別な意味などなにも要りはせぬ煙草の煙見てくれるなら

もうどこへ行くこともないコンパスを壊し S 極で目玉を刺す

フラスコに活ければ白衣着たあの娘きっと綺麗に染まるんだろな

器具触る色なき服を着たきみを見たらもう実験室から出れぬ